Sirince シリンジェ村 Vol.6
しばらく話をして、そこを後にし、この村に2つある教会のうちの一つへ向かう事にする。
細い路地を教会へ向かって登って行く。こちらに面しているのは裏側(礼拝堂側)で、入り口は反対側にあるという。
そちらへ向かって歩くけれど、彼は教会には興味がないというので、教会の向かいの路地へ入った。
私が写真を撮っていると、後ろで彼が何かの値段を訪ねる声がする。
何を買ってるのだろうと思ったら、花かんむりのサプライズプレゼントだった・・・(嬉)。年甲斐もなく、それを頭に載せて歩いて行くと、小さな食堂があった。
入り口の門をくぐって中へ入ると、かまどの前で女性がユフカを広げ、それにチーズや玉ねぎ、イタリアンパセリなどを載せて半分に折ったものを、直火で焼いていた。
ギョズレメ、もしくはボレキとも言われるそれは、トルコのファーストフード=母の味。私は、田舎の家のテラスそのものといった風情が気に入って、ここで何か食べようよと言う。
彼が自家製ワインはあるの?と聞くと、女主人であるPervin Teize(ペルヴィンおばちゃん)は、自家製フルーツワインがあるという。
「ギョズレメの他に何が食べられるの?」
「マントゥ(小麦の皮に具を包んで茹でたものに、ヨーグルトをかけて食べる)があるよ」
トルコに来てまだ一度もマントゥを食べてなかったので、ワインとマントゥを頼む。
テラスからの眺めは絶景で、見とれてしまう。
テーブルについた私たちのところに、Pervin teizeがやって来て話し始める。彼女は、女手一つでこの店を開き、あちこちから取材が来るほどの名物店になってしまったのだとか。
彼女の名前と写真入りのノートを見せながら、そう語る彼女の顔は誇りに満ちている。
ギョズレメを作っている女性を見ながら、
「彼女はなんでも嫌な顔一つせずこなしてくれるんだよ。下のセルチューク(シリンジェへの起点となる街)から毎日通ってきてくれててね。もう長いこと働いてくれてるんだよ。」
「あんたのかあちゃんはここにいるよ。いつでもおいで」
となおも続ける、肝っ玉かあちゃん。
「旦那とは53年一緒に連れ添っているけどね、1年くらいにしか感じられない。それほど幸せだったよ」
と笑う。
その旦那さんは、奥の方でずっと黙って座っている。
あとで聞いた話だけれど、彼女の旦那さんは耳が聴こえないそうで、彼女がずっと家計を支えてきた、この村で知らない人はいないほどの有名ばあちゃんだった。その代わり旦那さんは物事をなんでもよく見ている・・・と。
お勘定を済ませた私たちに、今日の昼焼いたんだよ・・・と自分たち用に作ったらしきジャガイモのボレキと焼きたてアツアツの ギョズレメをお土産に持たせてくれる。
Pervinおばちゃんの熱い心意気は、どんな人の心も溶かす。
同時に、人間としてこの地球で生きていくことの意味を、改めて感じさせられた出逢いだった。
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