Sirince シリンジェ村 Vol.1
Selcuk(セルチューク)のPAZARの裏手にあるオトガル(バスターミナル)に着いて、シリンジェ行きのドルムシュ(ミニバス)を見つける。
街路樹に電子時計が括り付けてあるのを見ると、18:05。出発まで13分。シリンジェまでは15分程度というので、トイレに行って戻ると、程よい時間。
ドルムシュに乗り込み、運賃を払っている彼をふと見やると、ミニバスの時計はぴったり18:18を指していた。
バスはセルチューク駅の辺りをぐるっと回って、駅の裏手へと進んで行く。
表の方の、緑に溢れた美しく落ち着く街並みから打って変わって、ゲジェコンドゥ(*1)がところどころ立ち並ぶ寂しい街並みへ。
それもすぐに抜けて、田舎道に入ると、周りは畑ばかり、その向こうに、独特の形状の乾いた山々が迫り、その美しさに、
「トルコは本当に美しい国だね・・・」
という言葉が口をついて出る。
「それはそうさ、まだまだこんなもんじゃない。とにかく素晴らしいところがたくさんある。これから君はそれを見るんだよ」
と彼に言われる。
ちょうど苺の季節で所々、苺や蜂蜜の産直スタンドが並ぶ道を通り抜け、山道に入る。
シリンジェは小さな村なんだよというから、平地かと思っていたら、山の上にあるらしい。
ドルムシュは緩やかにカーブする山道を登っていく。
視界が上がるにつれ、周りに拡がる自然の素晴らしさが、胸の奥に響いてくる。
おおらかでありながら繊細。
エーゲ海の自然。
オリーブの樹々が植えられている中に、所々生えているポプラが目を引く。ポプラは大体が中部アナトリアの特徴的な樹だと思っていたから。
それを彼に伝えると、
ここは本当にエーゲ、地中海、中部アナトリアにあるような樹々が共存している特別なところだねという。
懐の深い景色に包まれて、深い感動に自分の心がどんどん開かれて行く。
「着いたよ。シリンジェだ」
ほどなくして、ドルムシュは村の入り口に入った。
私たちが今住んでいる、フェティエにあるカヤキョイという、ギリシャ人が住民交換でいなくなった村によく似ている。
やはり、ここもギリシャ人の村だったのだ。
ドルムシュは土産物屋が立ち並ぶ狭い道を進み、左手にあるアフロディーテレストランに目をやったところで、停まる。
「タシュコナックはここだよ」
運転手に言われ、ドルムシュを降りると、レストランの向かい、右手にあるのが、目的のホテルだった。
ドルムシュから降りて、ホテルを見上げる。
「俺たちを待ってたか?」
ドルムシュを先に降りた彼が叫んだ、その先に、私たちの到着を待ってくれていたOKANの姿があった。坂を降りてくるOKANと握手し、ハグを交わす。
彼とOKANは8-9年来の友人でありながら、なんと今日初めて実際に会ったのだった。
もちろん私もOKANと会うのは初めてだけれど、冬にトルコに滞在した時に、彼と一緒に
何度もメッセンジャーのビデオを通話で話していたので、全くそんな感じがしない。
ホテルのフロント、かつレストランの向かいにある、古い警察の建物だったという白い石壁際のテーブルについて、チャイを飲む。
ホテルのどことなく懐かしい佇まい、眼下に広がる向かいの山々の景色、なんとも言えない、柔らかく、優しい空気に包まれ、一気にパラレルな世界に入った。
同じトルコ国内といえど、こんな天国のような場所があったとは・・・。
「OKAN、こんなスイートなところで生きてるからあなたはスイートなのね」
「みんなにそう言われるよ」
「腹は減ってないか?大事な客がくるからって、コックに頼んで美味しいスープと野草料理を作ってもらったよ」
そのコックも出てきて、共に座って時間が流れる。
頭上には、よく手入れされた藤が咲き、微かで、うっとりとする香りを運んでくる。
ホテルの裏手から出て、白い石畳みを登って行くと、すぐ右手の方に教会があった。
「ここが教会、この裏にも、もう一つ教会がある。中にはフレスコ画もあるよ」
ギリシャ形式の素朴な村の家々が、小さな露店やレストラン、バーとなって続いている。
ワインが特産とのことで、ワインショップも立ち並ぶ。
(Vol.2へと続く)
*1 ゲジェコンドゥ (gecekondu)は、他人の私有地や公有地に許可を得ないまま建てられた不法建築のトルコにおける総称。Wikipedia
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